エジル選手の代表引退を受けて

こんにちは。今日は食堂で10日ぶりくらいに再会した(2度目)ドイツ人の友人から聞いた興味深かった話をしたいと思います。

初めは、私が個人的に興味があった、昨日発表されたドイツサッカー代表のメスト・エジル選手の代表引退について、その友人に質問したことから会話は始まりました。エジル選手はドイツサッカー界のracismによってひどく傷つき、代表引退を決意したと自身のSNSで発表していたのですが、ドイツにそれほど激しい差別意識を持った人たちがいるとは、これまでの生活から感じられなかったため、詳しく経緯を知りたいと思いました。彼が言うに、ドイツでもベルリンはかなりliberalな地域で、南の田舎の地域では今でも人種差別意識がある、とのことでした。エジル選手は両親がトルコ人で遺伝的なルーツはトルコにあります。しかし、ドイツで育ち、教育を受け、サッカーをプレーしてきました。ですから彼は、ドイツに税金を払う普通のドイツ人としてこれまで暮らしてきました。

ワールドカップ直前、エジル選手ともう一人のトルコ系ドイツ代表選手は、独裁者として知られるトルコのエルドアン大統領と面会し、"Dear my president"というようなメッセージをユニフォームに書いて彼にプレゼントしたそうです。友人は、そのことが大きな波紋を呼び、もう一人のトルコ系ドイツ人選手は謝罪をしたのに、エジル選手は口を閉ざしたままだったことが、一つ大きな問題だと指摘していました。また、"my"ではなく"the"としていたらこんな問題にはならなかっただろうと。

 

確かにドイツ人からすると、トルコ系の国民が、ドイツで自由や優れた経済を享受しているにもかかわらず、自身のルーツを持つ国の大統領に対して、しかも独裁者として名高い人物に、忠誠とも取れる態度を示したことは無視できないことかもしれません。しかしエジル選手としては、自分はドイツとトルコの2つのheritagesがあり、「トルコの大統領」に会うことが重要でした。そこには政治的意味はないと繰り返し言っていて、好ましくない形で報道がなされていたことがうかがえます。一つ考えられることは、エジル選手がドイツにばかり傾倒して、トルコのことを無視するような形になると、トルコにいる親戚たちからよく思われない懸念があることです。それゆえ、トルコとのつながり、ルーツを忘れていないことを示す証拠が必要だったのかもしれません。

面会の写真の一連の騒ぎでエジル選手は精神的に酷く疲弊したことでしょう、ワールドカップでのパフォーマンスもいまいちで、またドイツのメディアの標的にされてしまいました。

今回の件は、一見、人種統合を他の国と比べると円滑に進めていた印象だったドイツに大きな影を落としました。ただここで問題であったのは、国民の差別意識というよりかは、メディアの報道であるように感じます。実際にドイツでは、戦争や差別の教育に力を入れていて、若者を中心に強い人種差別反対意識が備わっています。それに対し、今回の場合、一部の国内メディアはワールドカップ後の報道で、エジル選手のトルコのバックグラウンドやエルドアン大統領との写真を持ち出し、敗退を説明しようとしました。エジル選手は、「パフォーマンスを批判したわけでも、チームのパフォーマンスを批判したわけでもなく、自分のトルコ系のルーツを批判しているんだ」と嘆いていました。メディアは時として、受け取る人の意見を簡単に操作できる恐ろしいツールになりかねません。受け取る側のメディアリテラシーを高めることも大事ですが、そもそも、間違った、偏った報道が原因でこのような事態を招いたことは確かなので、そこを正していく必要があると思います。

 

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22.07.2018